はじめに:研究開発は「発見」だけでは終わらない
研究開発に憧れる人は多い。
新薬を生み出す最前線。0から1を作る仕事。確かに魅力がある。
ただ、製薬会社の現実として、研究開発のゴールは「発見」では終わらない。
工場で作れなければ薬にならない。安定供給できなければ社会に届かない。
だから研究開発には、研究のスキルだけではなく、
- 再現性
- スケールの感覚
- 品質と規制の視点
- 現場と文書の現実
が必要になる。
そしてここで強いのが、製造経験者だ。
製造経験者は、研究開発の世界で「遠回り」どころか、むしろ勝ち筋を持っている。
この記事では、製造経験者が研究開発に行くメリットを、実体験ベースで分解していく。
就活生にも転職者にも、判断材料として使えるように書く。
この記事で分かること
- 製造経験者が研究開発で強い理由(メリット7選)
- 製造→研究開発でつまずきやすいポイント(デメリットと対策)
- 製造経験を“研究っぽく”武器化する方法(職務経歴書/面接)
- 現実的なおすすめルート(製造→製造技術→研究開発)
- DX視点で「現場を動かす研究」がなぜ価値になるか
筆者について(製造→研究→製造技術→DX)
私はこれまで製薬会社で、複数の部門を経験してきた。
- 製造部:現場オペレーションとGMPの基礎を叩き込まれ、「安全に作る」ことの重さを体感した
- 研究開発部:合成や条件検討などに携わり、「0から1」を狙う探索と試行錯誤の世界を経験した
- 製造技術部:研究と工場の間に立ち、スケールアップやトラブル対応、文書整備など“社会に届ける側”を担った
- 現在:製造技術寄りの立場で、DX(業務改善・データ整備・自動化)を推進している
現場も研究も、そして両者をつなぐ側も見た。
さらに今はDX側として、**「人がつらいところ」「事故るところ」「属人化するところ」**を仕組みで潰す仕事をしている。
この記事は、その経験をもとに一般化して書いている(会社固有の情報は出さない)。
製造経験者が研究開発で強いメリット7選

メリット1:再現性のセンスが段違い
研究開発でよく起きる悲劇がある。
「たまたまうまくいった」実験が、次に再現しないやつだ。
研究の世界では、再現性は当たり前に重要だが、現実には揺れる。
一方、製造は揺れが許されない。
- ロットが変わっても同じ品質
- 担当者が変わっても同じ結果
- 記録を見れば同じ操作が再現できる
製造経験者は、最初から「再現する前提」で設計する。
この違いが、研究開発の価値を上げる。
研究の成果が「論文で終わる人」か「製品化まで行ける人」かの差は、再現性で決まる。
メリット2:スケールの感覚がある(フラスコ脳で終わらない)
製造を知っていると、研究設計の時点で“現実の壁”が見える。
- 撹拌が効かない
- 伝熱が変わる
- 溶解が遅い
- 晶析・濾過で詰む
- 原料や溶媒の調達が現実的でない
- 安全面でNG(暴走・発熱・ガス)
この感覚があると、研究の打ち手が変わる。
「理論上できる」ではなく、**「工場で成立する可能性が高い」**方向に寄せられる。
メリット3:品質・規制(GMP/CMC)の地雷を踏みにくい
研究開発の段階で、後工程の地雷を踏むことは珍しくない。
- 不純物の扱いが甘い
- 変更管理を軽視する
- データの残し方が雑で、後から追えない
- 文書が弱く、技術移管で崩れる
製造経験者は、品質と規制の現実を知っている。
「後でQAに怒られるやつ」を先回りできる。
ここは地味だが、実務ではかなり強い。
メリット4:ドキュメント力が強い(研究を“伝えられる”)
研究は実験だけではない。
引き継ぎ、技術移管、レポート、報告、再現の文章が必要だ。
製造経験者は、文書の世界で鍛えられている。
- 誰が読んでも同じ解釈になる
- 証跡として耐える
- 手順がブレない
DXをやっていると特に痛感するが、
**「文章が弱い=再現性がない=属人化」**だ。
研究開発でも、結局これが勝敗を分ける。
メリット5:関係者が多い仕事に慣れている(調整で折れない)
研究開発は“研究所だけ”で完結しない。
特に開発後半やCMC寄りになるほど、関係者が増える。
- 製造、QC、QA
- 設備、保全、エンジ
- 調達、サプライ
- 外部委託先(CDMOなど)
製造経験者は、そもそもこの世界が標準だ。
関係者が多いプロジェクトで折れない。ここは強みになる。
メリット6:安全・リスク感度が高い
研究室で許されていた“無理”が、工場では事故になる。
- 滴下速度
- 発熱挙動
- ガス発生
- 反応暴走
- 静電気、粉体爆発
- 有害物質の取り扱い
製造経験者は、安全を「知識」ではなく「現実」として理解している。
研究開発の設計段階で、リスクを織り込める。
メリット7:最終的に“社会実装”まで届く研究になる
結局、製造経験者が研究開発で強い理由はここに集約される。
研究を“工場で回る形”に落とせる。
研究の価値は「発見」だけではなく、
「社会に届く形で再現できること」だ。
この視点を持って研究開発をやれる人は、どこでも評価される。
逆にデメリットもある

メリットだけだと綺麗すぎる。
製造→研究開発には、実際に難しい点もある。
デメリット1:評価軸が変わる(新規性・論文・特許)
製造は、安定供給や逸脱削減など「現場の成果」が中心になりやすい。
研究開発は、新規性や仮説の鋭さが評価されやすい。
この評価軸の変化に最初は戸惑う。
対策:成果を“研究の言葉”で翻訳して語る(後述)
デメリット2:“正解がない世界”のストレス
製造は、基本的に正解がある(手順と基準がある)。
研究開発は、正解がない。探索は特にしんどい。
対策:短期の小さな勝ちを設計する
「今月はここまで」みたいな目標設定が効く。
デメリット3:専門性の棚卸しが必要
研究開発の領域によって求められる専門性は変わる。
有機合成なのか、分析なのか、製剤なのか、バイオなのか。
対策:自分の軸を決める
「私はプロセス/スケール/CMC寄りで勝つ」でもいい。
製造経験を“研究開発向けの武器”に変える方法
ここからが就活・転職で一番重要だ。
製造経験は強い。ただし言い方を間違えると伝わらない。
1) 「作業」ではなく「問題→仮説→検証→結果」で語る
製造の実績は、研究と同じ型にできる。
例)逸脱対応を研究っぽく言い換える
- 問題:○○の逸脱が発生(再発リスクあり)
- 仮説:原因はA/B/Cの可能性
- 検証:データ解析+再現試験
- 結果:原因を特定し、CAPAで再発率を低下
- 価値:品質リスクを下げ、安定供給に寄与
これだけで、製造経験が“研究開発の言語”になる。
2) 数字を入れる
研究開発でも、数字は武器になる。
製造経験者は、現場成果を数字で語りやすい。
- 工数:月○時間削減
- 不良率:○%→○%
- 逸脱:○件/月→○件/月
- 工程時間:○時間→○時間
- 収率:○%→○%
DXの仕事は、ここを見える化するのが本質だ。
数字で語れる人は、社内でも転職でも強い。
3) 面接で刺さる一言テンプレ
そのまま使える形にしておく。
- 「工場で成立する条件を前提に、研究設計ができる」
- 「再現性と品質を意識したデータの残し方ができる」
- 「技術移管で崩れない検討(標準化)を最初から組み込める」
- 「現場・品質・設備と連携しながらプロジェクトを進められる」
- 「DXの視点で、研究の属人化を減らし、仕組みとして残せる」
おすすめルート:製造→製造技術(CMC/技術移管)→研究開発
現実的に通りやすいルートがある。
それが「間に製造技術(CMC寄り)」を挟むルートだ。
- 製造で現場を知る
- 製造技術で研究と工場をつなぐ
- 研究開発に行っても、社会実装に近い側で価値を出せる
いきなり探索研究に飛ぶより、このルートの方が「会社が納得しやすい」場合が多い。
FAQ:就活・転職でよくある疑問
Q1. 製造経験がないと研究開発は無理?
無理ではない。ただ、製造経験があると「強い武器を持っている」状態になる。
特にCMCやプロセス寄りでは武器になる。
Q2. 製造経験者は研究開発で実験できる?
できる。ただし“探索”だけではなく、スケールや再現性の検討で価値を出しやすい。
Q3. 製造→研究開発で不利になる点は?
評価軸の違い(新規性)と、専門性の棚卸しが必要な点。
ここを言語化できれば不利にはなりにくい。
Q4. DXをやっていると研究開発で評価される?
評価される。特に「データの扱い」「標準化」「属人化潰し」は研究開発でも効く。
研究が“個人技”で回っている組織ほど、DX視点は刺さる。
まとめ:製造経験者は“現実に強い研究開発”ができる
製造経験者が研究開発に行くメリットは明確だ。
- 再現性のセンス
- スケールの現実
- 品質・規制の地雷回避
- ドキュメント力
- 調整力と安全感度
- 社会実装まで届く研究設計
さらにDX視点を持つと、研究開発の価値を「仕組み」として残せる。
属人化を減らし、再現できる形に落とせる。
研究開発は、発見だけでは終わらない。
薬として社会に届けて初めて価値になる。
製造経験者は、そのゴールから逆算できる。
だから強い。


