大学院での企業共同研究はおすすめしない理由【守秘義務の壁・就活の不利】

研究室

はじめに

大学院時代、私は企業との共同研究に携わった。
結果だけ見れば、これ以上ない成果だった。日米で特許が登録され、論文も表紙を飾った。
研究者として、これ以上ない成功体験のように聞こえるかもしれない。

でも、今振り返ると「二度とやらない」と思っている。
この記事ではその理由、そして私が得たもの・失ったものを、実体験として率直に書いてみる。
共同研究を検討している学生に、少しでも現実を伝えたい。


1. 共同研究は“研究室の本流”ではない

共同研究の最大の問題は、その研究が多くの場合、研究室の「主流テーマ」ではないことだ。
つまり、教員の専門外。だから関心も薄いし、技術的な指導もほとんど受けられない。
「企業から依頼が来たからやっている」という、受け身の雰囲気が漂う。

周りの同期は、指導教員の得意分野で研究を進め、論文を書き、学会で賞を取っていた。
一方、私は孤独な戦いを強いられた。
幸いにも優しい先輩が助けてくれたが、基本的には放置プレイに近い状態だった。

2. 成果がアカデミック評価に繋がらない

特許は企業寄りの実績だ。
論文や学会発表のように「研究業績」としてカウントされることは少ない。
奨学金の免除申請でも、学振申請でも、特許は評価の対象にならなかった。

論文化も容易ではない。守秘義務の壁があり、結果の一部を出すことすら難しい。
「特許」という形で世に出ても、アカデミックの世界では“なかったこと”になる。
このギャップが、後々まで大きく響く。

研究室内でも評価されにくく、「あいつ何やってんの?」感がつきまとった。


3. 学会発表という“舞台”に立てない

大学院生活において、学会発表は研究者としての成長に欠かせない経験だ。
自分の研究を他者に伝え、議論し、フィードバックを得る。
それが論理力やプレゼン力を磨く機会になる。

しかし、共同研究ではそれが許されないことが多い。
テーマ名すら公表できず、スライドにも一部しか出せない。
「発表禁止」のために、学会デビューを逃す学生も少なくない。

周囲が次々と発表し、賞を取っていく中、自分だけが“外に出せない”。
その閉塞感は、想像以上に堪えるものだった。

4. 就活で一番伝えたかったことが伝えられなかった

人生をかけた就活。
この研究は、自分の大学院生活で一番頑張ったことだった。
就活でも武器にするつもりで、言語化も準備していた。

でも、いざ面接やエントリーシートになると、
守秘義務の壁が立ちはだかる。
何を開発したのか、何が大変だったのか、どう乗り越えたのか……
そういった核心部分を、一切伝えられなかった。

結果、アピールはせいぜい1/3程度の内容に留まり、
「ここが一番頑張ったんだ!」という話ができないまま終わった。

他の学生が研究内容を堂々と話しているのを見て、正直、かなり悔しかった。
頑張りが伝わらないって、本当に報われない。


5. 頑張れた理由は、企業の人がいい人だったから

じゃあ、なんでそんな状況で頑張れたのか?

答えはシンプルで、企業の共同研究者の方々が本当にいい人たちだったから
ミーティング後に飲みに連れていってくれたり、学生を対等に扱ってくれたり、
「この人たちのために成果を出したい」と思わせてくれる人たちだった。

研究テーマに情熱を持てなくても、“人”が支えになることはある。
それが今回の唯一の救いだったかもしれない。


6. 日本とアメリカで特許は取れたけど、お金は一切もらえない

研究の成果は特許として形になった。
日本だけでなく、アメリカでも登録された。
特許番号を見たときは、さすがに胸が熱くなった。

しかし、報酬はゼロ。権利の持ち分はごくわずかで、大学院生に金銭的リターンはほぼない。
名誉は残るが、キャリアにも収入にも繋がらない。
「すごい」と言われても、現実は何も変わらなかった。

ちなみに特許登録後は、登録保証金というものが出るが、お小遣い程度であり、外食一回だけで消え失せた。


7. 共同研究は誰のためにやるの?

振り返って思う。
あの研究は、一体誰のためのものだったんだろう?

企業にとっては、自社の課題を大学に投げて解決してもらうチャンスだった。
教員にとっては、外部資金が入ることで実績が増え、研究費が確保できる。

じゃあ、学生にとっては?
新しいテーマを任されても、サポートは少なく、論文にもなりにくい。
守秘義務により発表も制限され、就活でも十分に話せない。

「成果は出たけど、全部が自分のためだったとは言えない」
そう感じている人、きっと他にもいるはずだ。

だからこそ、共同研究に取り組む前に考えてほしい。
自分は何のためにやるのか?
誰かの期待に応えるためじゃなく、自分の未来に繋がる選択をしてほしい。


おわりに|共同研究=良い経験 とは限らない

企業との共同研究と聞くと、なんとなく“すごいことをしてる感”がある。
でも、実際にやってみると、

  • 教員のサポートは薄く
  • アカデミック評価もされず
  • 金銭的リターンもなく
  • 学会には出れない
  • 論文化も難しい
  • 就活でも伝えきれない

という、なかなかハードモードな道だった。

これから共同研究を選ぼうとしている人には、「本当に自分がそのテーマをやりたいか?」を自問してほしい。
“話題性”や“派手に見える成果”に惑わされず、ちゃんと自分の未来に繋がる選択をしてほしいと思う。

産学協同の未来は?

産学協同は本来、大学と企業が知を共有し、社会に還元するための仕組みだ。
しかし現実には、企業の利益を優先し、学生や若手研究者の立場が軽視されている。
特許や論文といった“成果物”だけが評価され、その裏で努力した人間は報われない。

大学側の評価方法を変えない限り、この構造は変わらない。
学生は研究室の外貨獲得のために働かされ、成果を発表する自由も、正当な評価も与えられない。
これでは、学生を搾取し、潰すだけの仕組みになってしまう。

私の特許も、登録までに4年かかった。
大学院を卒業してから4年後にやっと登録通知が届いたが、
その頃には研究テーマも途絶え、報酬もなく、ただ名前だけが残った。
誰がそんなに長い時間、報われる保証もなく耐えられるだろうか。

産学協同が続くためには、“成果の共有”だけでなく、“努力と時間への正当な評価”が必要だ。
そして、その現実を鋭く描いた一冊が、山田剛志さんの『搾取される研究者たち』(光文社新書)である。
この本は、産学連携の裏側で研究者がどのように搾取され、制度がいかに歪んでいるかを、
法的・社会的な視点から明らかにしている。

この記事を読んで「自分も似た経験をした」と思った人には、ぜひ読んでほしい。
きっと、あの理不尽さの正体が少し見えてくるはずだ。

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SATOSU

こんにちは、SATOSUです。
35歳です。

元 製薬・化学系メーカーにて、
研究・生産技術・DX推進を横断的に経験してきました。

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工数削減や属人化解消など、
現場起点の生産性向上に継続的に取り組んできました。

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