
製薬業界の求人や業務紹介を見ていると、「CMC」という言葉を目にすることがあります。
しかし、研究職や品質管理、製造技術と比べると、CMCが具体的に何をする仕事なのかは分かりにくいかもしれません。
結論から言うと、CMCとは、医薬品を安定した品質で製造し、患者に届け続けるための技術・品質・申請業務の総称です。
新しい薬の候補物質を見つけるだけでは、医薬品として販売することはできません。
工場で再現性よく製造できるのか、不純物を管理できるのか、保存中に品質が変化しないのか、同じ品質の製品を継続して供給できるのか。
こうした課題を解決するのがCMCの役割です。
この記事では、製薬業界を志望する人に向けて、CMCの意味や仕事内容、研究・製造・品質部門との違いを分かりやすく解説します。
CMCとは
CMCは、次の3つの英単語の頭文字を取った言葉です。
- Chemistry:化学
- Manufacturing:製造
- Controls:品質管理・管理方法
日本語では、「製造及び品質管理」や「医薬品の品質に関する研究開発・申請業務」などと説明されます。
ただし、CMCは一つの部署名や職種名を表す言葉とは限りません。
医薬品の原薬や製剤について、製造方法、品質規格、分析方法、安定性などを検討し、その結果を承認申請資料としてまとめるまでの広い領域を指します。
米国食品医薬品局(FDA)でも、治験申請に必要なCMC情報として、原薬、製剤、プラセボ、表示などに関する情報が挙げられています。
つまりCMCとは、簡単に言えば、
「この薬を、狙った品質で、安定して製造できることを証明する仕事」
だと考えると分かりやすいでしょう。
なぜ医薬品にCMCが必要なのか
創薬研究によって、病気に効果を示す化合物が発見されたとします。
しかし、効果のある化合物が見つかっただけでは、薬として患者に届けることはできません。
例えば、次のような問題を解決する必要があります。
- 大量製造しても同じ品質になるか
- 製造中に危険な反応が起こらないか
- 有害な不純物が残らないか
- 原料や製造場所が変わっても品質を維持できるか
- 錠剤や注射剤として適切に投与できるか
- 保存中に成分が分解しないか
- 製品ごとの品質のばらつきを抑えられるか
実験室で数グラム作ることができても、工場で数十キログラム、数百キログラムを安定して製造できるとは限りません。
反応容器の大きさ、撹拌状態、温度分布、原料の投入速度、設備の違いなどによって、反応結果や不純物の量が変わることがあります。
また、医薬品は「一度作れればよい製品」ではありません。
承認された品質を維持しながら、長期間にわたって患者へ供給し続ける必要があります。
そのため、医薬品の開発段階から承認後まで、製造方法や品質を継続的に管理するCMCが重要になります。ICH Q12でも、承認後のCMC変更を含む医薬品のライフサイクル管理について、国際的な枠組みが示されています。
CMCの主な仕事内容

CMCの業務範囲は非常に広く、会社によって担当部署や職種名も異なります。
代表的な仕事内容を見ていきましょう。
原薬の製造方法を開発する

原薬とは、医薬品の効果を示す有効成分のことです。
低分子医薬品の場合は、有機合成反応などを使って原薬を製造します。
原薬の製造方法を開発する担当者は、次のような検討を行います。
- 合成ルートの選定
- 反応条件の最適化
- 使用する原料や試薬の選定
- 不純物の生成原因の調査
- 精製方法の検討
- 結晶化条件の検討
- スケールアップ
- 製造コストや安全性の評価
創薬研究では、「目的の化合物を作れるか」が重視されることがあります。
一方、CMCでは、それに加えて「工場で安全かつ安定的に作れるか」「品質を管理できるか」という視点が重要になります。
収率が高いだけでなく、操作性、安全性、設備適合性、原料調達、廃棄物量なども含めて製造方法を設計します。
製剤を開発する

原薬は、そのまま患者に投与されるとは限りません。
錠剤、カプセル、注射剤、液剤、吸入剤など、患者が使用できる形に加工する必要があります。
製剤開発では、次のような検討を行います。
- 剤形の選択
- 添加剤の選定
- 錠剤の硬さや崩壊性
- 薬物の溶けやすさ
- 製剤からの薬物放出
- 投与時の使いやすさ
- 包装形態
- 保存条件
同じ原薬を使用していても、製剤の設計によって体内への吸収や保存安定性が変わることがあります。
そのため、製剤開発も医薬品の品質や効果を左右する重要なCMC業務です。
分析方法を開発する

医薬品の品質を確認するには、成分量や不純物を正確に測定する方法が必要です。
分析法開発では、HPLCやGC、質量分析、分光分析などを利用して、次のような項目を測定する方法を作ります。
- 原薬や製剤の含量
- 純度
- 不純物
- 分解物
- 残留溶媒
- 水分
- 結晶形
- 溶出性
分析方法は、単に測定できればよいわけではありません。
正確性、精度、特異性、直線性、再現性などを確認し、目的に適した方法であることを証明する必要があります。
医薬品の品質に関する国際的なガイドラインはICHのQuality領域に整理されており、分析法、安定性、不純物、製剤開発、品質リスクマネジメントなど、幅広いテーマが対象となっています。
不純物を管理する
医薬品の製造工程では、目的成分以外にもさまざまな物質が発生する可能性があります。
例えば、次のようなものです。
- 未反応の原料
- 反応副生成物
- 分解物
- 残留溶媒
- 金属不純物
- 製造設備や包装材料に由来する物質
CMCでは、どのような不純物が発生する可能性があるのかを調査し、その安全性や管理方法を検討します。
不純物の発生原因を理解し、製造工程で減らすこともあれば、分析試験によって規格内であることを確認する場合もあります。
不純物管理は、化学、分析、安全性、製造工程の知識を組み合わせて進める必要がある業務です。
安定性を評価する
製造直後に問題のない医薬品でも、時間がたつと成分が分解したり、性質が変化したりする可能性があります。
そのためCMCでは、医薬品をさまざまな温度や湿度条件で保存し、品質がどのように変化するかを確認します。
この試験を安定性試験といいます。
安定性試験の結果は、次のような設定に利用されます。
- 使用期限
- 保存温度
- 遮光の必要性
- 包装形態
- 開封後の使用期間
例えば、「室温保存で3年間使用できる」という使用期限も、安定性試験のデータに基づいて設定されます。
製造工程をスケールアップする
研究室で確立した製造方法を、実際の工場設備に移す仕事もCMCの重要な役割です。
小さなフラスコと大型の反応釜では、熱の伝わり方や撹拌状態が異なります。
そのため、単純に原料の量を100倍にすれば同じ結果になるとは限りません。
スケールアップでは、次のような条件を検討します。
- 温度制御
- 撹拌速度
- 原料の投入速度
- 反応時間
- ろ過や乾燥の方法
- 設備の材質や容量
- 作業者の安全性
- 工程内の管理項目
必要に応じて、研究部門、製造部門、製造技術、品質管理、品質保証、設備担当などが協力して進めます。
承認申請資料を作成する
医薬品を販売するには、規制当局の承認を受ける必要があります。
日本では、医薬品の品質、有効性、安全性に関する資料をまとめ、厚生労働省やPMDAによる審査を受けます。
CMCに関する申請資料には、主に次のような情報が含まれます。
- 原薬の構造や特性
- 原料や製造方法
- 工程管理
- 品質規格
- 分析方法
- 不純物
- 製剤の処方や製造方法
- 容器包装
- 安定性試験
これらの情報は、CTDと呼ばれる国際的に共通化された形式に沿って整理されます。
CMC担当者には、実験や製造に関する技術力だけでなく、得られたデータを論理的に整理し、規制当局に説明する力も求められます。
承認後の変更を管理する
医薬品のCMC業務は、承認を取得したら終了するわけではありません。
承認後にも、次のような変更が発生することがあります。
- 原料メーカーの変更
- 製造場所の変更
- 製造設備の変更
- 製造スケールの変更
- 分析機器や分析方法の変更
- 製造工程の改善
- 包装資材の変更
医薬品では、こうした変更が製品の品質に影響しないかを評価する必要があります。
変更内容によっては、追加試験や規制当局への申請・届出が必要になります。
そのためCMCは、研究開発段階だけでなく、医薬品の販売終了まで関わるライフサイクル型の業務だといえます。
CMCと研究職の違い
創薬研究とCMCは、どちらも医薬品開発に関わりますが、目的が異なります。
創薬研究の主な目的は、病気に作用する新しい物質や治療方法を見つけることです。
一方、CMCの主な目的は、その候補物質を医薬品として安定的に製造し、品質を保証できる状態にすることです。
簡単に表すと、次のようになります。
創薬研究:
薬の候補を見つける仕事
CMC:
その候補を、実際に製造・供給できる医薬品へ仕上げる仕事
ただし、両者の境界は会社によって異なります。
プロセス研究、製剤研究、分析研究などを研究職として採用しながら、業務上はCMC領域に位置づけている会社もあります。
CMCと製造技術の違い
CMCと製造技術は、かなり重なる部分があります。
製造技術では、工場への技術移管、製造条件の改善、トラブル対応、設備導入、製造支援などを担当します。
これらは広い意味ではCMC活動の一部と考えられます。
一方で、会社の求人などで「CMC職」と表記される場合は、製造技術だけでなく、原薬、製剤、分析、品質保証、薬事申請などを横断的に取りまとめる役割を指すことがあります。
つまり、
製造技術はCMCを構成する重要な機能の一つ
と考えると分かりやすいでしょう。
CMCと品質管理・品質保証の違い
品質管理は、原料、中間体、原薬、製剤などを試験し、決められた品質規格を満たしているか確認する仕事です。
品質保証は、製造や試験がGMPなどのルールに従って適切に行われていることを保証する仕事です。
CMCは、これらの部門と連携しながら、製品の品質をどのように設計し、管理するかを考えます。
- CMC:品質を作り込み、申請戦略を考える
- 品質管理:実際の製品を試験する
- 品質保証:製造や試験の仕組みを保証する
実際には明確に分離できない業務も多く、会社の規模や組織によって担当範囲は変わります。
CMCに向いている人
CMCには、次のような人が向いています。
実験だけでなく製品化にも興味がある人
CMCでは、新しい現象を発見することよりも、得られた技術を安定した製品に仕上げることが重視されます。
研究成果が工場へ移り、最終的に医薬品として患者へ届く過程に関わりたい人には向いています。
複数部門との調整が得意な人
CMC業務では、研究、製造、品質管理、品質保証、薬事、設備、委託先など、多くの関係者と連携します。
自分一人で実験を完結させるだけでなく、異なる立場の人と情報を整理し、プロジェクトを進める力が必要です。
データを論理的に説明できる人
CMCでは、「この条件なら品質を管理できる」「この変更は製品品質に影響しない」といった判断を、データに基づいて説明します。
実験結果を出すだけでなく、その結果が何を意味するのかを論理的に説明する力が求められます。
地道な検討を積み重ねられる人
製造条件や分析方法の検討では、細かな条件を一つずつ確認する作業も多くあります。
華やかな新薬発見とは異なるかもしれませんが、医薬品を実際に世の中へ届けるためには欠かせない仕事です。
CMCで求められる知識
担当領域によって異なりますが、CMCでは次のような知識が役立ちます。
- 有機化学
- 分析化学
- 製剤学
- 化学工学
- 統計解析
- GMP
- 品質リスクマネジメント
- 医薬品規制
- プロジェクトマネジメント
- 英語
すべてを一人で専門的に扱う必要はありません。
原薬、製剤、分析、品質、薬事など、それぞれの専門家が協力して一つの医薬品を作り上げます。
ただし、経験を重ねるにつれて、自分の専門領域だけでなく、CMC全体を見渡す力が求められるようになります。
CMCは医薬品を患者へ届けるための仕事
CMCとは、Chemistry, Manufacturing and Controlsの略で、医薬品の製造方法や品質管理に関する幅広い業務を指します。
創薬研究で見つかった候補物質を、安定した品質で製造し、医薬品として患者へ届けるためには、CMCの存在が欠かせません。
原薬製造、製剤開発、分析法開発、安定性試験、スケールアップ、承認申請、承認後の変更管理など、その業務範囲は非常に広いものです。
製薬業界を志望している人にとって、CMCはやや分かりにくい言葉かもしれません。
しかし、実際には研究、製造、品質、薬事をつなぎ、医薬品開発を前へ進める中心的な領域です。
「薬の候補を見つける」だけでなく、その薬を現実に作り、品質を保証し、患者へ届けるところまで関わりたい人にとって、CMCは魅力のある仕事といえるでしょう。

