製薬会社で働くうえで、プログラミングは必要なのだろうか。
研究職や製造技術職を目指している人からすると、「化学や薬学を勉強してきたのに、プログラミングまで必要なのか」と感じるかもしれない。
結論から言えば、製薬会社で働くためにプログラミングは必須ではない。実際、プログラミングをほとんど使わずに活躍している人も多い。
しかし、自分で簡単なプログラムを書けるようになると、仕事の進め方は大きく変わる。
私はもともと有機化学を専門としており、IT系の仕事を目指していたわけではない。製造や研究開発、製造技術といった仕事を経験する中で、「この作業、毎回同じことをやっているな」と感じる場面が多くあり、そこからExcel VBAやPythonを使うようになった。
結果として、単純作業の削減だけでなく、「仕事そのものをどう組み替えるか」という視点を持てるようになった。
この記事では、製薬会社でVBAやPythonを使えると何が変わるのか、実務で感じたメリットを紹介する。
製薬会社では意外なほどExcelを使う

製薬会社というと、最新設備や専門的なシステムを使っているイメージがあるかもしれない。
もちろん専用システムを利用する業務も多いが、実際の現場ではExcelがかなり使われている。
例えば、
- 製造記録や手順書の作成
- 製造データの整理
- 試験結果の集計
- 原料や化学物質の管理
- 工程条件の比較
- 教育資料の作成
- 各種帳票の作成
などである。
そしてExcelを使う仕事には、「人間が毎回同じ操作を繰り返している」ケースがかなり多い。
別のファイルから数字をコピーする。
決められたセルに貼り付ける。
条件に応じて文章を変更する。
複数のシートを作成する。
ファイル名を変更して保存する。
1回あたり数分で終わる作業なら、それほど問題にはならない。しかし、これを数十件、数百件と繰り返せば大きな時間になる。
しかも単純作業ほど集中力が落ちやすく、転記ミスも起こりやすい。
こうした仕事と相性がいいのがVBAである。
VBAは製造現場ではまだまだ使える

VBAというと、「古いプログラミング言語」というイメージを持つ人もいる。
確かに、Webサービスや最新のAI開発にVBAを使うことは少ない。
しかし、製薬会社や製造業の現場では話が別である。
なぜなら、Excelが今も広く使われているからだ。
実際、私もVBAを使って文書作成や帳票作成を自動化してきた。
例えば、これまで人が何時間もかけて作成していた文書でも、入力情報をまとめ、決められたルールでテンプレートへ反映する仕組みを作れば、作業時間を大幅に短縮できる。
ある業務では、数時間単位でかかっていた作業を30分程度まで短縮できた。
別の文書作成では、複数人で何十時間もかかるような作業を、入力情報を整理して自動生成することで大幅に削減できた。
もちろん、すべてを自動化できるわけではない。
最終確認や品質上の判断は人間が行う必要がある。
それでも、「人間が判断する必要のない作業」を減らすだけで効果は大きい。
プログラミングの価値は単なる時短ではない
業務改善というと、「何時間削減できたか」が注目されがちである。
もちろん時間削減は重要だ。
しかし、私がプログラミングを使って一番大きいと感じているのは、単なる時短ではない。
人間が考えなくてもよい仕事を、コンピューターに任せられることである。
例えば、100か所のセルへ決められた情報を転記する仕事があるとする。
人が作業すれば、「次はどこだっけ」「この値で合っているか」と常に注意を払う必要がある。
単純作業なのに頭を使う。
しかも、どれだけ慣れていてもミスの可能性はゼロにならない。
一方、ルールが明確ならプログラムに任せることができる。
人間は転記作業ではなく、
「この条件で本当に問題ないか」
「この工程にリスクはないか」
「もっと改善できるところはないか」
といった仕事に集中できる。
製薬会社では、むしろこちらの判断の方が重要である。
Pythonを使うとExcelの外まで広がる

VBAを使っていると、次第に「Excel以外も自動化したい」と思う場面が出てくる。
そこで役立つのがPythonである。
Pythonを使うと、例えば、
- 大量ファイルの一括処理
- PDFの処理
- 画像処理
- データ解析
- GUIツールの作成
- AIとの連携
- ファイル整理
- データベース処理
など、できることが一気に増える。
私自身もPythonを使って、簡単なGUIツールを作成してきた。
例えば、画像や文書を扱う作業を補助するツールや、人の目で確認していた情報を整理するツールなどである。
プログラマーから見れば、小さなアプリかもしれない。
しかし、製造現場では「誰でもボタンを押せば使える」というだけでも価値がある。
現場の全員にPythonを勉強してもらう必要はない。
プログラミングが分かる人が裏側を作り、使用者は普通のソフトと同じように使える。
この形まで持っていけると、個人の効率化ではなく、部署全体の改善へ広げることができる。
「化学×プログラミング」が意外と強い

私が面白いと感じているのは、プログラミング単体ではなく、化学や製造の知識と組み合わせたときである。
世の中には、私より高度なプログラムを書ける人はたくさんいる。
一方で、製薬会社の現場ではプログラミングだけ分かっていても、何を改善すればよいか分からないことがある。
例えば製造現場では、
- GMP
- 製造プロセス
- 設備
- 品質
- 安全性
- 文書管理
- 現場の運用
など、さまざまな事情を考える必要がある。
IT部門に「この仕事を自動化してください」と依頼する場合でも、まず現場の業務を説明しなければならない。
一方で、現場を知っている人自身がプログラミングを理解していれば、
「ここは自動化できる」
「ここは人が確認した方がよい」
「このデータを取得できれば改善できそうだ」
と考えられるようになる。
つまり、現場とITの間をつなぐことができる。
今後、製薬会社のDXやスマートファクトリーが進むほど、この役割は重要になると感じている。
最初からPythonを勉強しなくてもいい
では、これからプログラミングを始めるなら何を学べばよいのだろうか。
個人的には、普段Excelをよく使う人ならVBAからでも十分だと思っている。
いきなりPythonの参考書を最初から最後まで勉強する必要はない。
まずは自分の仕事の中で、
「毎週同じことをやっている」
「コピー&ペーストが多い」
「この作業が面倒だ」
というものを一つ探してみる。
そして、それを自動化してみる。
10分の作業でもよい。
自分が書いたコードで仕事が一瞬で終わる経験をすると、プログラミングの面白さが一気に分かる。
そこから、
VBAでExcelを自動化する。
Pythonでファイルや画像を扱う。
AIを使う。
設備データを扱う。
PLCやラボオートメーションを学ぶ。
というように、興味の範囲を広げていけばよい。
私自身も、最初からDXをやろうと思っていたわけではない。
「面倒な仕事を楽にしたい」
というところから始まり、結果的にできることが増えていった。
まとめ
製薬会社で働くために、プログラミングは必須ではない。
しかし、VBAやPythonを使えるようになると、自分の仕事に対する見方が変わる。
目の前にある作業をそのまま受け入れるのではなく、
「これは自動化できないか」
「そもそもこの作業は必要なのか」
「もっと良いやり方はないか」
と考えるようになるからである。
プログラミングは、化学や薬学の専門性を捨ててIT人材になるためのものではない。
むしろ、
化学や製造の専門性を、さらに活かすための道具である。
特に製薬業界では、現場を理解しながらデジタル技術も使える人材はまだ多くない。
製造技術、DX、スマートファクトリー、ラボオートメーションなどに興味がある人なら、まずは身近なExcel業務の自動化から始めてみるのも面白いと思う。


