DXが進めば、無駄な仕事は減る。
AIが進めば、単純作業は自動化される。
では、その結果として、働かない人は自然に淘汰されるのだろうか。
私は、そう簡単にはいかないと思っている。
むしろ現実には、働かない人が排除されるのではなく、これから入ってくる若者の椅子が減る可能性がある。
実際に、その流れはすでに出始めている。
大企業でも、新卒採用を絞る動きが出ている
・三菱電機
2026年度の新卒採用計画を750人とし、前年度見込みの960人から約2割減。
理由として、AI活用の拡大や業務効率化の進展を踏まえた対応とされている。
中途採用も800人から750人へ減らす計画。
・クボタ
2027年4月入社の新卒採用計画を452人から280人へ減少。
特に大卒・大学院卒は239人から60人へ大きく減少。
理由として、成長事業への重点配置、社内人材の流動化、業務効率化、人員配置の見直しを挙げている。
※AIとは明記されていないが、業務効率化と採用抑制が同じ文脈で語られている。
・村田製作所
2027年度入社の新卒採用を減らす理由として、生成AIの活用をはじめとした業務効率化を挙げている。
メーカーが、生成AIと採用抑制を同じ文脈で語っている例として使いやすい。
もちろん、これだけで「AIやDXが若者の雇用を奪っている」と断定するつもりはない。
ただ、少なくとも大企業の中で、AI活用、業務効率化、省人化、新卒採用の抑制が同じ文脈で語られ始めているのは事実である。
私が感じている違和感は、単なる妄想ではなくなりつつある。
DXやAIで仕事は楽になるはずだった
DXやAIが進めば、仕事は楽になる。
単純作業は自動化される。
面倒な転記作業は減る。
紙の書類も減る。
属人化していた仕事も整理される。
若手は雑務から解放され、もっと成長につながる仕事に時間を使える。
本来、DXやAIにはそういう未来があるはずだった。
私自身、AIやDXにはかなり可能性を感じている。
実際に、業務改善や文書作成の効率化、Excel VBA、Python、AI活用の仕組みづくりにも取り組んできた。
だから、私はAI反対派ではない。
むしろ、使えるものはどんどん使った方がいいと思っている。
ただ、最近ひとつ強い違和感がある。
それは、DXやAIが進んだ結果、本当に現場は楽になるのかということだ。
もっと言えば、DXやAIの成果が若手や現場に還元されず、ただ採用抑制や負担増に使われるだけではないか。
そんな疑問がある。
働かない人は、DXでは自然に消えない

DXという言葉は便利だ。
業務効率化。
自動化。
ペーパーレス。
生産性向上。
AI活用。
どれも聞こえはいい。
理想を言えば、DXによって無駄な作業が減り、残業が減り、若手が雑務から解放される。教育に時間を使えるようになり、現場に余裕が生まれる。
そういう未来なら素晴らしい。
しかし、会社という組織の中では、必ずしもそうならない。
なぜなら、日本企業では既存社員を簡単には解雇できないからである。
もちろん、雇用が守られていること自体には意味がある。
簡単に人を切れる社会がいいとも思わない。
ただ、その一方で、明らかに成果を出していない人が組織に残り続けることもある。
新しいことを覚えようとしない。
面倒な仕事は若手に流す。
責任は取らない。
会議ではそれっぽいことだけ言う。
過去の経験だけでマウントを取る。
でも給料は高い。
いわゆる「働かないおじさん」問題である。
もちろん、年齢だけで人を判断するのはよくない。
年齢を重ねても、現場を支え、若手を育て、知識を伝えてくれる人はいる。そういう人は本当に貴重だ。
問題なのは、成果を出していない人が残り、若手や中堅にばかり負荷が寄っていく構造である。
会社が調整しやすいのは「これから入る新入社員」

既存社員は簡単には減らせない。
高コスト人材もすぐには切れない。
働かない人も自然にはいなくならない。
では、会社はどこで調整するのか。
新卒採用を減らす。
若手の補充を止める。
中途採用を絞る。
できる若手や中堅に仕事を集める。
こうなる。
つまり、DXで仕事が減ったとき、本来なら無駄な業務や不自然な人員配置が見直されるべきである。
しかし現実には、すでにいる人ではなく、これから入ってくる人が削られる可能性がある。
ここがかなり残酷だと思う。
働かない人は残る。
若者の入口は狭くなる。
残った若手はさらに忙しくなる。
そんな未来のためにDXを進めたいわけではない。
DXで減るのは、働かない人ではなく、若者の椅子かもしれない。
AIを使える人ほど、仕事が増える
AIも同じだ。
AIを使えば、文章作成は速くなる。
要約もできる。
議事録も作れる。
Excelの関数やVBAの相談もできる。
資料のたたき台も作れる。
使える人にとっては、かなり強力な武器になる。
しかし、会社の中ではここにも罠がある。
AIで1時間の仕事が10分になったとする。
では、残りの50分は休めるのか。
おそらく、多くの会社ではそうならない。
「じゃあ、別の仕事もできるよね」
「それもAIでできない?」
「この部署の分も見てくれない?」
「若いし詳しいからお願い」
こうなる。
AIを使える人ほど、仕事が速くなる。
仕事が速い人ほど、仕事を振られる。
結果として、AIを使える人だけがさらに忙しくなる。
これはかなり皮肉だ。
本来、AIは人を楽にする道具である。
しかし、会社の運用次第では、AIは「できる人に仕事を集める装置」になる。
特に若手や中堅は危ない。
新しいツールに抵抗が少ない。
学習が早い。
手を動かせる。
現場の実務も知っている。
上からの依頼も断りにくい。
その結果、AI活用担当、DX担当、システム管理、現場改善、通常業務、教育係まで全部乗ってくる。
便利な人間ほど搾取される。
これでは、DXでもAIでもない。
ただの負荷移転である。
効率化しても現場が楽にならない理由
なぜ、効率化しても現場は楽にならないのか。
それは、会社が効率化の成果を「余裕」として扱わないからだ。
本来なら、効率化で生まれた時間は現場に返すべきだと思う。
教育に使う。
品質向上に使う。
安全確認に使う。
ミスを減らすために使う。
若手が考える時間に使う。
残業を減らすために使う。
そうすれば、DXには意味がある。
しかし、会社が効率化の成果をすぐに「追加業務の余地」として見てしまうと、現場は永遠に楽にならない。
10分短縮したら、10分ぶん仕事が増える。
1時間短縮したら、1時間ぶん別の仕事が増える。
システム化したら、そのシステムの管理業務が増える。
AIで文書が速く作れるようになったら、文書作成をもっと頼まれる。
これでは、働く側からすると、ただ仕事の密度が上がっただけである。
昔は8時間かけて10個の仕事をしていた。
今はAIとDXで、8時間に15個の仕事をする。
これを成長と呼ぶのか。
これを生産性向上と呼ぶのか。
私はかなり疑問に思う。
若者を搾取しないDXが必要だ
私は、DXやAIそのものを否定したいわけではない。
むしろ、現場にこそ必要だと思っている。
紙の転記。
意味の薄い資料作成。
誰も読まない報告書。
過去ファイルのコピペ。
属人化した手順。
探さないと見つからない情報。
無駄な承認フロー。
こういうものは、どんどん減らした方がいい。
若手がこんな仕事で消耗する必要はない。
中堅が毎日、調整と転記だけで疲弊する必要もない。
AIやDXは、本来そこに使うべきだ。
ただし、それは若者の椅子を減らすためではない。
仕事ができる人にさらに仕事を押しつけるためでもない。
働かない人を温存したまま、若手だけに変化を求めるためでもない。
本当に必要なのは、若者を搾取しないDXである。
具体的には、こういう方向だと思う。
若手の雑務を減らす。
教育の質を上げる。
属人化をなくす。
残業を減らす。
ミスを減らす。
仕事ができる人に負荷が集中しないようにする。
AIを使える人だけが損をしない仕組みにする。
効率化で生まれた時間を、現場の余裕として還元する。
これができて初めて、DXには意味がある。
問題はAIではなく、会社の使い方だ
AIは悪くない。
DXも悪くない。
問題は、それを会社がどう使うかである。
AIで仕事が減るなら、その成果は現場に返すべきだ。
DXで業務が効率化されたなら、若手の採用を減らす前に、無駄な会議や承認や責任回避の文化を見直すべきだ。
働かない人がいるなら、若者の入口を狭めるのではなく、役割や評価を見直すべきだ。
それをせずに、
「AIで効率化できるから人を減らそう」
「DXで回るから採用を抑えよう」
「若手はAIを使えるからもっと働けるだろう」
となるなら、それはただの搾取の高度化である。
テクノロジーが進んでも、人の扱いが古いままなら意味がない。
むしろ、AIやDXによって搾取の効率だけが上がる。
私はそれを望んでいない。
まとめ:DXの目的は、若者の椅子を減らすことではない
DXやAIが進むこと自体は避けられない。
これからも、仕事のやり方はどんどん変わっていく。
だからこそ、考えなければならない。
そのDXは誰を楽にしているのか。
そのAI活用は誰の負担を減らしているのか。
効率化の成果は、現場に還元されているのか。
若手の成長機会を奪っていないか。
できる人に仕事を集めるだけになっていないか。
DXの目的は、人を減らすことではない。
少なくとも、若者の未来を削ることではない。
本当に価値のあるDXとは、まともに働く人が損をしない仕組みを作ることだと思う。
若手が雑務で潰れない。
中堅が便利屋として消耗しない。
現場に余裕が生まれる。
人が育つ。
仕事の質が上がる。
無駄な仕事が減る。
そういう未来のためなら、DXやAIには大きな価値がある。
しかし、働かない人を温存したまま、若者だけに負担を押しつけるためのDXなら、私はあまり賛成できない。
AIやDXが進んだ先にあるべきなのは、若者が搾取される未来ではない。
まともに働く人が、ちゃんと報われる未来である。

